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白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2014/03/22(土)   CATEGORY: 未分類
北京ミニ滞在記パート2 (「あの寺は今」篇)
 清朝皇室はチベット仏教を大変重んじていたため、北京の大寺院はほとんどチベット系である。清末、北京に滞在した寺本婉雅は「チベット仏教は清朝の国教」というほど、かつてチベット仏教は北京で殷賑を極めていた(興味ある方は拙著『清朝とチベット仏教』を読んでくださいね!)。

 清朝最盛期の皇帝、乾隆帝の時代、チベット仏教の転生僧チャンキャ三世は、乾隆帝の側近くに仕え、清朝の立場を代弁して、チベット、モンゴルの仏教界と交渉を行った。まあ、いろいろ違う要素もあるが徳川家康と天海大僧正の関係みたいなものか。その清代、歴代のチャンキャが駐在した寺が故宮の北にある嵩祝寺である。

このお寺は中国国内の他の宗教施設同様、20世紀に入り荒れ果てていた。2005年8月、嵩祝寺の名を残した道路に囲まれた一角をぐるっと回ってみたが、店舗と民家になっており、嘗ての山門から境内をのぞきこむと、元東配殿・西配殿らしき建物は内装を壊して改装中であった。当時、北京城内は三年後の北京オリンピックに向けて乱開発が行われていたため、これもその一環と思われた。

 その後、2013年の1月に「嵩祝寺が高級レストランに変わるが、これは文化財保護法に違反するのではないか」とする以下の記事があがった。私の中国語力はかなりトホホなので原文を確認できる方はこちらをどうぞ。

「嵩祝寺と智珠寺がレストランに変わった。これが法に抵触するか否かは解釈が待たれる」 北京晨报 2013年01月29日 09:52:41  
 
 新華社電によると、近日、高級レストランに改装された北京の嵩祝寺と智珠寺の件について、北京の文物局 (文化財担当部局)が28日、文物執法隊による現地調査を入れた。両寺内の一部がレストランに利用され、古建築内にはテーブルなどが放置されていたものの、露出した火は使用されていなかったことが確認された。当該の行為が規則に違反しているか、そして事後処理について北京市文物局はさらなる説明を行っていない。記者は現場でこの両寺が営業中であることを確認している。

 嵩祝寺は北京市東城区景山後街嵩祝院23号、1984年に西側の智珠寺とともに北京市の文化財となった。嵩祝寺と智珠寺はかつては境内を連ねる三座の大寺東に法淵寺、真ん中に嵩祝寺、西に智珠寺があった。このうちもっとも古い寺が、永楽年間に建造された智珠寺で、明代には漢文とチベット文の経典を印刷する工房であった。

 智珠寺と塀一つ隔てた嵩祝寺は、清朝の雍正帝の11年(1733年)に建築が始まり、かつてはモンゴルの活仏チャンキャ・フトクトが活動した場所である*(私注: チャンキャはアムドの出でチベット仏教徒なので、モンゴル僧というイメージで果たしていいかはナゾ。また、仏は転生しないので、チャンキャを活仏というのも不適切)。
 
近日メディアが、この二つの古寺が改築されて高級レストランになることを伝えると、熱い議論が巻き起こった。
 北京市の文物局によると、嵩祝寺と智珠寺は,1950年代から牡丹枝貿発展公司、北京大地科技実業有限公司(牡丹園アパート)、北京市装潢設計研究所、北京文体百科工業聯合公司などが管理使用していた。1980年代に宗教政策が実行されるようになってからは、この建築の財産権は北京市仏教協会へと移された。しかし、上述のこの協会が多くの理由から、両寺を賃貸にだし、北京市仏教協会は賃貸料をとりつつ、両寺を借り手とともに協同管理している。

 この両寺の建築は長年にわたり作業場や倉庫として使用されていたため、文化財の痛みは激しく、安全上も大きな問題がある。2005年、北京市文物局は北京市仏教協会と寺の使用者に対して改善を命じる厳しい通達を行い、協議の結果「資金を集めて文化財を修繕し、修繕の後にはその出資者が使用する」こととなった。

 記者の取材では、北京市文物局は出資者についてはっきりした情報は出さなかったが、すでに両寺はレストランになることは確認されており、商業施設となる。『中華人民共和国文物保護法』第23条によれば、「査定をへて文化財となったものは国家に属し、すべての古建築は博物館、〔文物の〕保管所、参観施設以外の用途に用いる場合は、人民政府の文物行政部門の認証をへた上で、一級文物行政部門の同意を得た後、当該の文化財の人民政府の批准を公布する」とある。

 寺院内においてレストランを開設することについての是非は、この批准をまつことになり、北京市文物局執法体調趙建明はさらに一歩進んだ調査が必要だと明言した。

 2011年8月国家文物局が発布した『国家文物保護単位経営性活動管理規定』には、「国有文化財の経営生活動は公共文化に属さないものを禁止する。文化財を賃貸、請負、譲渡、担保にだすことを禁止する。営利目的の商業開発; 公共の安全を妨害すること、文化財保護にとって害を及ぼすことを禁止する。」両寺の内部でレストランを作ることが上述の規定に反するか否かは、なお北京市文物局のさらなる解釈を待ちたい。


というわけで、2014年の嵩祝寺である。

 北京に来た私はK嬢にこのように誘われた。

 K嬢「センセー、前門の洋館をかいしめてオサレに再開発したあの集団が、嵩祝寺を買い取って、オサレな高級フレンチレストランにしたらしいですよ。中に入って建築がみられるから、行ってみましょうよ。ランチならそんなに値段ははりませんよ、きっと」

 確かに、客になれば内部を正当に見学できるので、行ってみることとする。

 地下鉄を降りて歩くこと約十分。嵩祝寺街に入る。この通りの外観は2005年当時とあまり変わっていない。しかし、山門前に黒服の男がたっている。高級レストランの関係者とみたK嬢が「予約がなくても大丈夫ですか」と話しかけると、少し待てばOKという。

 そこで、山門をくぐってかつての境内で待つこととする。山門内部の棟や梁は塗料はハゲハゲで木質が剥き出し。壁には直接薄型液晶ビジョンが四枚かかっていて映像を流している。

 境内に入ると、境内をはさんで東側はテンプル・ホテル、西側はTRB(テンプル・レストラン・ペーチン)の建物になっていることが分かった。かつての智珠寺の本堂はテンプル・ホテルの講堂になっている。
 本堂は裏からみると塗料はげはげで昔のままのたたずまいで、天井の天板もぬけたまま。少なくとも現状は維持しているが明らかに修復はしていない。
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 そして、驚いたことに講堂内部ではナイキの新作発表会をやっていた。本堂の中には液晶ビジョンとパイプ椅子が並んでいる。
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 さらに本堂前には人工的な池と煉瓦作りの別棟の新設されておりテンプル・ホテルの客室となっている。どこから見てもこのお寺、商業施設である(はあと)。
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 さらにテンプル・ホテルは近代アートの展示場になっているらしく、境内には清朝時代の扮装のアートな人形があり、弁髪男が座っていたり、正装したチベット僧が蛍光灯しょっていたりするし、なんかいろいろパフォーマンスをやっている(爆笑)。
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 もうどこからつっこんでいいのか分からないので、「テーブルのご用意ができました」と言われるまま、レストランに入る。

 入り口はかつての寺の建物をそのまま用いており、自動ドアの向こうには洋酒がならんでいる。
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 で、これが店内。
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この建物は新造部分で、日本のフランス料理屋さんとなんら変わらない内装である。私たちが席に着くと、三人くらいのウェイターが素早くかしづいてくれて、そのうち一人は白人。
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 雰囲気がリッチなので、ついほいほいグラスワインをたのみ、コーヒーまで飲んでしまう。お料理はフレンチなのに八角の味がして中華風味になっていて、とびきり美味しいというほどではない。客層は当然白人か北京の富裕僧であり、われわれもなぜかウエイターと英語で会話する(笑)。

 そして、お楽しみの会計タイム。サービス料15%加算されて、全部で310元でした。この値段差を体感するために、その前の晩の夕ご飯代を申し上げますと、中央民族大学の裏手にある雲南うどんやたべたうどんの値段が11元。雲南うどんを吉野屋並盛り280円とすると、テンプル・レストラン・ペーシンのお昼は7890円くらいの感覚か。

 て、高っ。
 
よく途上国で先進国のサービスを受けようとすると日本より高くなるというけど、これがそれか。

 かつてのチベット寺ですごしたゴージャスなひとときは、チベット仏教がいかに北京で壊滅しているか、「上に政策あれば、下に対策あり」「法律は空文化」を体感できた貴重なひとときだったのでした。

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COMMENT

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miyacoma | URL | 2014/03/28(金) 13:32 [EDIT]
>境内には清朝時代の扮装のアートな人形があり
さすがに裕福な人を対象にした場所だけあって、ちょっと前に遼寧省のショッピングモールに「金瓶梅」のいろんなところが露わになっちゃった像が設置されて話題(問題?)になってたのよりはだいぶましですかね・・・。
しかしまた、テンプル・ホテルにテンプル・レストラン・ペーチンって、随分直球な命名で。由緒ある、歴史あるお寺の“場所”っていうことに価値があって、意義とか内容はもう眼中にないって、ありありと伺えますね。
● >miyacomaさん
シラユキ | URL | 2014/03/30(日) 23:32 [EDIT]
この直球の名前には私も笑いました。この有様からみるに、中国仏教協会にはお金も政治力もないんでしょう。日本でいうたら、増上寺あたりがホテルとレストランになって本堂がイベント会場になっている感じでもう悲しい限り。

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