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白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2009/03/21(土)   CATEGORY: 未分類
『風の馬』と『雪の下の炎』
 渋谷のミニシアターUplinkで四月十一日から、チベットものの映像が二本かかる。

 一つはポールワーグナー監督が1998年にとった『風の馬』、もう一つはニューヨーク在住の日本人監督、楽真琴(ささ・まこと)監督がとったドキュメンタリー『雪の下の炎』。

 後者は制作年が2008年なのでできたてのホヤホヤ。『風の馬』も十年前の作品とは言え、チベット情勢がここ十年ちっとも良くならないどころか、どんどん悪くなっているので、内容はまったく古くなってない。ドラマの中に現れるチベット人の看守やら密告屋やらは今も健在ですし、「毛沢東はわたしたちの太陽」みたいな歌をチベット人の女の子が歌わされるような事情もいまなお健在です。

 ていうか、こういうことが思い出話になる日が早く来てくれないと困ります。

 『風の馬』はじつは『セブン・イヤーズ・イン・チベット』と『クンドゥン』というチベットもの二大ハリウッド映画が封切られた同年に撮影されている。この二作はメジャーだったので予算は潤沢、モロッコやアルゼンチンにセットつくって背景にチベットの風景CG合成したりできたけど、『風の馬』は低予算だったので、ラサの風景はラサでとっていわばで無許可で撮影している。


 さすがに登場人物が「チベット独立」を叫ぶシーンは、まんまパルコルでとるわけにもいかず、カトマンドゥに偽パルコルつくって撮影したんだが、やっぱばれて退去命令とかだされという。この映画をつくるための苦労でドキュメンタリー映画が一本とれるんじゃないの。


 で、『風の馬』の方はパンフレットに一文をよせるために、実は一ヶ月ほど前にサンプル映像を見ていたのだが、『雪の下の炎』はまだ見ていなかったので、ブログに予告でもかかなきゃ、ということで木曜日に試写会にいく。

 いやま、これまたすごい話。
 
 中国がチベットを占領した時、亡命しそこなった僧侶らは刑務所にいれられた。平和な国で暮らしている我々にとって刑務所とは、人に迷惑かけるとか、つまりは犯罪をおかした人が入るわけだけど、中国支配下のチベットにおける刑務所や収容所は、体制(社会主義中国)の言うなりにならない人が言うことをきくようになるまでさんざんイジメられる施設だった。

 そうでなくとも社会主義政権の失政の下、食糧が不足してみな餓えていた時代、収容所の中の餓えはすごかった。ペルテン・ギャムツォさんはその上、体制の言うなりにもならないし、脱獄とか試みたりしたので、拷問とかもされる。

 で、こういう収容所に入れられると、ほとんどの人は人間が変わって、とにかく看守のいうなりに従順になって、「チベットは中国の一部です」「ダライ・ラマ法王は人面獣心の悪○です」とかいうようになって、釈放されていく(そのあと大概亡命しますが)。

 ところが、ペルテン・ギャムツォ師のすごいとこは、「自分は何の罪も犯していないんだから、何ひとつ罪悪感を抱くこともないし、ザンゲすることもない」と頑として譲らず。33年間も獄中にいた(ダライ・ラマ法王は中国人を怒らせないように、彼らの望むようにふるまって、拷問を逃れなさい、といってます)。

 見上げた根性である。

 そして、イタリアのアムネスティ・インターナショナルの助けでやっと出獄したあと、亡命して、老骨にむちうってフリー・チベットの活動をはじめた。

 ダライ・ラマ法王が使わなくなった「独立」の言葉をペルテン師は口にするので、報道が「亡命政府の方針と違っていいの」とか心配したりするが、彼は「民主主義だ。言論の自由はある」そして、「自分は中国政府に対する怒りに駆られて、証言をしているのではない。刑務所の看守が自分たちを殴るのも、生活のためだ。彼らを個人的に恨んではいない」と意に介さない。

 このペルデン師の言葉の元になるような考え方が、ダライ・ラマの著作の中にあったような気がしたので、探してみたら、ありました。

 もちろん、筆舌に尽くしがたい苦しみを受けたり、理不尽きわまりない扱いをうけることもあるでしょう。すると、あなたをひどい目にあわせた相手はとてつもなく悪い業を積むことになるのです。このような場合、〔彼らに悪業を積ませないように〕こうした状況を正すべく反撃にでてもかまいません。ただしその場合、罪を犯した者へ怒りや憎しみを起こしてはなりません。慈悲の心を持って相手に対して確固たる対応をするのです。・・・中国政府との交渉に関していえば、私たちは常々中国に対してネガティブな感情をもたないようにしています。感情に溺れることが決してなきよう、怒りや憎しみが生じても、丹念にチェックして取り除き、中国人への哀れみの心を養うようにしています。
 加害者に対して何故あわれみの心を起こさなければならないかというと、因果の法則によれば、加害者はそうした行いをすることによって、後の人生に望ましくない果を得る因縁を結んでしまったからです。このように考えれば、加害者あるいは侵略者に対して哀れみの心をおこす十分な根拠があるとわかるはずです(『ダライ・ラマ 怒りを癒す』)。


 「民主主義」も「慈悲にもとづく反撃」も確かに法王の推奨してることですわ。

 というわけで、四月からUplinkで行われる『風の馬』と『雪の下の炎』よろしく。『風の馬』のパンフレットには産経新聞の福島香織さんや、ペマギャルポ先生や、西蔵ツェワンさんや、モーリー・ロバートソンさんの文書が並んでいて、必見。

 モーリーさんの文書で印象深かったのが、自分はチベットに行く前に、中国政府の言い分とNGOや一部のジャーナリストの言うことがあまりに隔たっていたので、どちらの情報も信じないで自分の目で確かめようと思った。で、実際にチベットいってみたら

現地入りしてあちこち撮影する内に、だんだんと皮膚感覚で実情を捉えられるようになりました。・・・何日かすると、NGOや活動家側の主張が100%正しいな、という直感が働きました(『風の馬』パンフレットより)。

という件。そうか普通の人は真っ向から対立する見方がある場合、自分の目でみるまで判断しないんだ。じゃあチベットに行かない人は一生判断ペンディングかよ。

 論理的に考えれば活動家にはウソをいう理由なんかないし、亡命するチベット人だって、そもそも生まれた土地を離れて言葉も通じない異国に逃げるなんてよほどのことがないとしないよ、それを考えたら、どちらの言うことが正しいかなんて想像つきそうなもんだけど・・・。

 まっいっか。この一年でずいぶん新聞報道もマトモになってきたし。この映画とかドキュメンタリーで言っていることを信じられない人は、そうですね、みなさんチベットにいらっしゃってその眼で見てこられるのもいいかもしれません。

風の馬→http://www.uplink.co.jp/x/log/002949.php
雪の下の炎→http://www.uplink.co.jp/fireunderthesnow/
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ハマーン | URL | 2009/03/23(月) 03:10 [EDIT]
>亡命するチベット人だって、そもそも生まれた土地を離れて言葉も通じない異国に逃げるなんてよほどのことがないとしないよ、それを考えたら、どちらの言うことが正しいかなんて想像つきそうなもんだけど・・・。

故郷の神戸を懐かしむことが時々あります。
もし、神戸に二度と足を踏み入れられなくなったとしたら、
とても切ない思いをすると思います。
私はその程度の妄想で切なくなりますから(笑)、
国を捨てなければならない、
言葉の通じない異国へ逃げなければならない彼らの痛切な心境は
私の想像をはるかに凌いでいると思います。

中国・チベット自治州で暴動があったようですね。
● メンツではない何か
Hiromi | URL | 2009/03/24(火) 18:31 [EDIT]
現代の中国の問題の根源は人口爆発と資源の減少であると思います。
だから、政権や権力者が変わっても、同じ問題が続くと思います。

チベットに興味を持つようになってから、あえて勉強せずにいた、中国の政治のこと、権力者の個人的な生い立ちなどにも興味を持つようになりました。
「なぜかれらはこのようにするのだろう?」
現代中国の覇権主義の原型は始皇帝に遡ると思いますが、なぜ、統一が必要だったのか、まだ答えが見つかりません。また、現代の政権の中枢にいる人々も、限定的な情報しかありませんが、残虐であるとか特異な性格であるという印象はありません。
ゲームのように、大ボスを倒してハッピーエンドとは、いかないのでしょう。

民族大移動が何度も世界を変えたように、中国人の世界への拡散が世界に大きな変化をもたらすと思います。そして、チベット問題はその始まりであり、たくさんの悲劇のうちの一部分にすぎないのかもしれません。
これらの映画も、様々な意味で、多くの人に自分のことのようにリアルに感じてみて欲しいです。

変わる世界の中で、仏教という思想や、生き方の実践が、世界の混乱を融和に転化するきっかけになるよう祈ります。

中国では今、桜が満開でとてもきれいです。しかし、日本の桜が恋しいです。中国は、桜の薄紅に映える空の澄んだ青さもないし、落ちた花びらをすぐに掃いてゴミにしてしまうのが残念です。
高原を離れたチベットの人々も、青空は世界のどこでもみられるけど、あの宇宙に近いチベタンブルーをいつも恋しく思うのでしょう……。

ゆず | URL | 2009/03/24(火) 20:16 [EDIT]
昨年11月にダラムシャーラーで開かれた亡命チベット人の特別会議では、50%がダライ・ラマの現在の中道路線を支持し、30%が独立、20%がどちらとも言えないとしているそうです。まさかこんなに独立を求めている人がいるという事は驚きます。もうチベット動乱から50年も経過しました。確かに中国との話し合いも目立った成果はありません。ダライ・ラマの影響力も衰えているように見えます。しかし、半数はダライ・ラマの中道路線に従うとしているのです。祖国を失って、半世紀にもなり帰れる見通しはほとんどない。しかし、今なお中道路線を進むというのは、彼らがダライ・ラマを尊敬し、敬虔な仏教徒であるからでしょう。
● 管理人のみ閲覧できます
| | 2009/03/25(水) 07:05 [EDIT]
このコメントは管理人のみ閲覧できます
● 管理人のみ閲覧できます
| | 2009/03/25(水) 07:17 [EDIT]
このコメントは管理人のみ閲覧できます

カルマ・フォーチュン(♪♪) | URL | 2009/03/25(水) 08:40 [EDIT]
新華社通信よりの、報道だからでしょう。
日本人ジャーナリストのほとんどが、取材活動ができないとも、外国人ジャーナリストが、捕まった話を、未確認ながら、(夢ですが。)情報が入ってます。
僕が説明するよりも、チベット@NOWルンタノブログ記事が、早いみたいです。
ダラムサラからの情報だから。

が、状況は、芳しくないようです。
(リサーチするので手一杯です。すみません。)

カルマ・フォーチュン(♪♪) | URL | 2009/03/26(木) 09:01 [EDIT]
http://news.livedoor.com/article/detail/4067629/

http://news.livedoor.com/article/detail/4069333/

http://news.livedoor.com/article/detail/4070845/

チベット潜伏記1~3 現在、8まで上がってました。
どうやら、夢じゃなくて事実のようです。楽真琴氏のブログも外国人ジャーナリスト逮捕を伝えていました。
(心から彼らの勇気に感謝し、そして無事帰国できる事をチェンレシーにお祈り申し上げます。)

シラユキ | URL | 2009/03/26(木) 11:41 [EDIT]
>ハマーンさん
 ゴロクでお坊さんの死に対する抗議行動があったようです。それと今中国公安がチベット人を暴行している映像がYoutubeに流れているんで、中国からYoutubeが閲覧できないそうです。中国政府は偽の映像だといいはってますが、偽なら国民にみせてもかまわないんじゃないですかねえ。
 
>Hiromiさん
 長野の聖火リレーの際、とある人権団体の方が中国人留学生と議論してその方が「大国だ大国だといっても、大きくても腐ってたら意味がないだろうが」といったら、一言も言い返せなかったそうです。数が多いから、という理由だけでは、世界中が同じ色になりませんよ。
 
>ゆずさん
 チベットは本来独自の民族的アイデンティティをもつているわけで、「国の定義とは」みたいな現代政治の詭弁をろうしてあれこれいおうとも、本来チベットは独立しているわけです。チベット人のみならず、多くの人にとってダライラマ法王のいう言葉は深淵で重いですわ。
 
>ビーの飼い主さん
 ハックルベリー・フィンの冒険のお話、おじいさまのお話、とても興味深かったです。戦前の日本の選民思想を植え付ける教育とか、今の中国の愛国教育とかは本当に破滅への道。広い視野をもった人が力をもてない社会は未来がありません。
 
>カルマさん
 この潜伏記面白いですねー。二十世紀初頭、鎖国のラサを突破しようとした各国探検隊のつばぜり合いを彷彿とさせます。帝国の制圧下にあとるチベットとは、まさにチベット史の暗黒時代ですね。

ハマーン | URL | 2009/03/26(木) 22:43 [EDIT]
>偽なら国民にみせてもかまわないんじゃないですかねえ。

本当にそうですよねえ。
偽ならみせればいいじゃないですかねー(笑)

PENBA YAKDU | URL | 2009/03/27(金) 01:09 [EDIT]
カルマさんが紹介された潜伏記事興味深く読みました。
80年代に未開放地を公安に隠れながら潜行した頃を思い出しました。

昨年10月に正式許可で康定、塔公、丹巴から山中に入った時、また先月も二郎山からアバやカンゼに入ったときも何も問題がなかったので、この3/10前後の急激な変化に驚きました。

でも、ほんとに、潜行にはチベット人に迷惑がかかるので強硬な取材も考えていただきたいと思います。
河口慧海の時代も彼を匿ったチベット人達は、慧海の意に反して処刑されましたが、今まさに同様の状態といえるかもしれません。
困ったもんだ。

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