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白雪姫と七人の小坊主達
なまあたたかいフリチベ日記
DATE: 2020/03/09(月)   CATEGORY: 未分類
『パンと牢獄』とコロナ
3月10日は、1959年に、ダライラマ14世をまもるべくチベット人が蜂起してから61年目にあたる日である。ご時世でフリー・チベット関連のイベントは中止となってしまったが、チベットを思う日としてかわりにチベット人政治犯一家の10年を記録した新刊『パンと牢獄』(小川真利枝著 集英社クリエイティブ)について紹介したい。
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2008年3月12日、かつてのチベットの都ラサ(西蔵自治区)でおきた暴動はまたたくまにチベット全土に拡がった。チベット人の怒りが爆発した原因はその年8月に開幕を控えていたオリンピックにあった。国際社会は北京でのオリンピック開催を決めるに際して、中国政府に報道・言論の自由、チベット亡命政府との対話などに取り組むことを要請したものの、何も改善がみられないままオリンピックがナショナリズムの発揚に利用されたからだ。

 この暴動をうけて、世界主要都市で行われることになっていた聖火リレーはフリー・チベット旗をもったチベット支援デモにむかえうたれ、面子をつぶされた中国政府は怒り狂った(以来、聖火リレーは開催国のみでやることに決められたw)。

この蜂起の直前、トンドゥプワンチェン(1974-) というチベット人が挙動不信を理由に公安に拘束されていた。公安はその後、この男がチベット各地においてチベット人の生の証言を録画していたこと、彼の撮影したフィルムは協力者の手でスイスに持ち出され、『恐怖を乗り越えて』(英語版Leaving Fear behindはここで、日本語字幕入りダイジェスト版はここで見られます。)という28分のドキュメンタリーへと編集されたことを知る。

この映像の中で、僧や遊牧民などのあらゆる階層のチベット人が顔をさらして、ダライラマの帰還を切望し、民族が消滅する絶望を訴えていた。一部をあげると

「中国人はチベット人に宗教の自由を与えているといいますが、自由はないです。ダライラマ法王がチベットにいないことがその証です。ダライラマ法王が帰還するどころか、地方の役人たちは中国に連れて行かれ、『ダライラマの帰還を望まない』との念書を取られ、その見返りに多額の金を与えられている。」

「私たちはただの遊牧民ですが、私たちは全ての祈りをダライラマ法王に捧げます。全ての祈りの中に法王がいらっしゃいます。」

僧侶が泣きながら「ダライラマの帰還はすべての人の夢。でも実現の望みは少なそうです。ダライラマ法王の名前を口にするだけで、強い信仰と深い悲しみを感じます。状況は絶望的です。もう疲れ果てました。一人であてもなく終わりもなくさまよい続けているようです。」

60才女性 「死ぬまでに一目でもいいからダライラマ法王を拝みたいです。100頭の馬と1000頭の牛と引き替えにしてもかまいません。」。


あの中国で命をかけてなされた告発は蜂起にまでおいつめらたれたチベット人の本音を国際社会に発信したため、撮影者であり投獄もされているトンドゥプは有名となった。世界中の人権団体がトンドゥプの釈放運動を行ったものの、中国政府はトンドゥプに6年の刑期を宣告し、2014年に刑期満了で釈放した後も、公安の監視下に置いた。


 2017年2月、トンドゥプは公安をまいて中国脱出を試み、ベトナム経由でタイのアメリカ大使館へとかけこむことに成功した。同年のクリスマスの日、サンフランシスコの空港で妻子と再会した。アメリカ入国に際してはアメリカのチベット支援者たちのネットワーク、とくに民主党の下院議長でダライラマの支援者として著名なナンシー・ペロシ氏の力添えがあったと言われている。

本書はこの2008年の蜂起の年のトンドゥプの逮捕から2017年サンフランシスコの空港で家族と再会するまでの軌跡を、トンドゥプ本人とその妻ラモツォ (1972-) の証言から再構成したものである。

トンドゥプの逮捕時、夫の活動を全く知らされていなかった(しかし、夫の指示でダライラマのお膝元のインドのダラムサラに出ていた)ラモツォは突然政治犯の妻となり、七人の家族(子供四人と義父母と姪)の生計を支えることとなった。中国統治下のチベットに育ったラモツォは読み書きができず、できる仕事は限られていた。彼女は午前一時に起床しパンを焼き、一日バスターミナルに座ってパンを売って一家の生活費を稼いだ。本書の題名『パンと牢獄』とは政治犯の夫と残された妻の生活を象徴的に示している。

チベット難民というと可哀想なイメージで括られがちであるが、本書の著者も言うように、ラモツォはたくましい。2012年、子供四人を引き連れてサンフランスシスコへの移住を決行し、チベット支援者の家で家政婦として働きながら、夫の釈放を待った。読み書きができなくとも、スマホがあれば音声通話で世界中にちりぢりになった家族と無料通話ができるし、メイドの求人を探すことができる (チベット人メイドを雇うことはアメリカ人の意識高い人達の中ではステイタスとなっている)。

アメリカに無事わたったトンドゥプは国連やアメリカの議会での証言を行ったが、本土に残してきた人達にどのような影響があるか分からないため、どこまで話していいのか苦しんだようである。本書の最期にはそのような葛藤をへた後のトンドゥプへのインタビューがのせられている。

中国の公安による逮捕状なしの拘留・暴力の詳細、個人間の通話情報をすべて積み上げての取り調べ、当局の弁護士しかつかない裁判など、中国の少数民族に対する抑圧の記録としても貴重である。

 周知のとおり中国政府はここ十年、ウイグル人・チベット人の「管理」を厳しくし、とくにウイグル人は成人男性を強制収容して、イスラム教をすてさせ、漢語を話し共産党を賞賛するようにさせる「職業訓練」を行っている。チベット人は大人しいのでそこまではされていないが、高僧や学者などは移動制限をかけられ、2008年以後、インドとの国境は厳しく監視されているため、昔のようにチベット人が子供たちをダラムサラの学校に送ることもままならなくなっている。一方、一般の中国人はご存じとおり、エルミタージュであろが、ルーブルであろうが、京都の嵐山であろうがどこにでもいける

 今現在中国共産党は国の威信をかけて私権を制限して武漢肺炎の封じ込めを行っている。賭けてもいいけど、これが成功したら、「[政府批判を抑圧する] 独裁こそが経済にとっても防疫にとってもベストな選択である」とか国内外で宣伝を始めるだろう。そして不安にさいなまれている人の中からはそれに騙される人もでてくるだろう。

しかし、今回のコロナ肺炎については現場でコロナ肺炎の発生をつげた医師を当局が拘束するなど言論統制したことが初動をおくらせる原因になっている(しかもこの医師はもうコロナに倒れて死んでいる)。また武漢を強権発動して閉鎖しても、そのまえの1月25日の春節時点で多くの中国人観光客が世界中の観光地にちったあとであった。知り合いがアメリカ西海岸のサンタモニカにつてがあるが、一月末から中国人の数が爆増えしていたといい、明らかにこれが現在カリフォルニアに蔓延しているコロナの感染元である。

大体WHOの事務局長、テドロスが中国に忖度して台湾をWHOからはずし、今回も「たいしたことない」と言い続けたことがさらに事態を悪化させている。WHOから排斥された台湾が、いち早く入国制限をして国内感染者を増やさなかったことが皮肉であった。

科学的な知見が重要となるような今回のような場合は、独裁であれ民主主義であれ、とにかく政治家は、すぐれた専門家に討議させてその結果を謙虚に聞いて仕事人に徹するべきであった。今回の件で中国共産党が手柄を誇ったらマジで国際社会は怒った方がいい。

個人的には、これを契機に中国人観光客のオーバーツーリズムがなくなることを祈りたい。

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